桜奉行 幕末奈良を再生した男川路聖謨

 

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出久根達郎(養徳社、1,800円+税)

よく似た名前で有名なのは初代警視総監の川路利良である。しかし、二人につながりはなさそうだ。本書の主人公は九州豊後国日田(大分県日田市)に代官の子として生まれた。弘化3年(1846)奈良奉行に赴任~安政元年、下田で日露和親条約に調印する。明治元年(1868)3月、江戸城総攻撃の日、無血開城決定の法を知らず、割腹の上、日本で初のピストル自殺を遂げる――。

この本は病気療養中の著者「ライフワークの一本」と言う。川路は足かけ6年、奈良奉行を勤めた。役所兼官舎は大名屋敷5~6万石に匹敵する豪邸で、大坂町奉行所の3倍近い。川路の治績は犯罪、特にバクチの弾圧。拷問の禁止。貧民救済と学問の奨励そして山陵の保護。鹿に傷つけても故意でなければ罰しない。桜のカエデの植樹を奨励した――読売新聞「人生案内」の回答者でもある出久根さんが、ゆったりとした気持ちでつづった風雅な一冊だ。(M)