HOME > 大学活動情報 > 麗澤会 > 雄弁会弁論原稿の紹介「海を行く」

雄弁会弁論原稿の紹介「海を行く」

第8回立命館大学清新杯争奪全国学生弁論大会

優勝 立津義樹(拓大2年)演題「海を行く」
準優勝 田沼浩太郎(明大1年)
第三席 木村健太郎(法大2年)

拓大Culture!にも掲載されていますのでご覧ください。


私の祖父は船乗りでした。小さい頃から大海原を行く素晴らしさを私に幾度と無く語ってくれました。それもあってか私も船に携わる仕事につき、今は学生としてこの演壇に立っています。大学生となってからも私の海に対する興味はつきませんでしたが、その対象は海洋安全保障や海底資源開発などといった、よく論じられる問題でした。

本弁論では、その内航海運の存続を脅かす、危急かつ重大な問題について述べていきます。

内航海運とは何かを簡単に説明すると、その国の中で完結する海運の事を言い、これに参入できるのは原則として自国船籍の船に限ります。

その内航海運では、現在深刻な問題が起こっています。それは人手不足です。

現在船員の高齢化が進行しており、50歳以上の船員が全体の49%を占めるという状況で、今後10年以内に約40%の船員が退職することが見込まれています。一方で30歳未満の船員は全体の僅か14%に過ぎません。離職率も問題です。30歳未満の離職率は一般の業種では23%ですが、船員においては37%と高水準で、若年船員が定着しないという状況です。そのため船舶の大型化や自動化が進み、必要とされる船員が漸減傾向に向かうとされているにもかかわらず、10年以内に約5000人の船員が不足すると見込まれています。

また内航海運事業者は多くが中小零細企業であり、新人船員を育成する余裕が無く、今後船員不足による運航の縮小が進行することにより更に経営環境が悪化し、益々育成の余裕が失われていくことが予想されています。

現代においては海難事故を防ぎ、安全かつ安定した海上輸送を実施するため、国際的に厳しい基準が設けられ、各国内でそれを元にした安全基準が設けられています。その安全基準を満たすためには船員の能力を高い水準で維持管理する必要があります。

国際的には船員の管理は海運事業者とは別の管理専門の企業が各事業者と契約し、その仕事を担っていますが、日本においては各事業者が独自に実施するのが主流となっています。しかしながら先にも述べたとおり内航事業者は人手不足に陥っており、十分な人材を維持する事が難しくなってきています。

このままでは内航海運を維持するのは非常に厳しい状態となってしまうのです。

では、これの何が問題なのでしょうか?

内航海運は国内運送の約40%を占めており、数字だけ見れば、約55%を占めるトラックに比べれば需要は少ないように思えますが、ここで重要なのは「何を」、「どこに」運んでいるか?です。

船が運んでいるのは資源や自動車などの大型機械製品であり、特に鉄鋼や石油などの産業物資は80%を占めています。これらの物資は一度に大量に運ばなければならない、船以外では大きすぎて運べないなどといった物です。内航海運がダメになるといくら需要があってもこれらを運ぶことが出来なくなり、日本産業にとって大きな打撃となってしまいます。

そして船でなければ運べない場所というものもあります。それは離島です。

しかし飛行機だけでは全ての離島に物資を輸送することが出来ません。また先程の話のように、船でなければ運べない物も当然有ります。内航海運が成り立たなくなれば、離島の生活もたちまち成り立たなくなってしまいます。島国である日本にとって重要な問題です。

ではなぜ人員不足が起きているのでしょうか?原因は2点に分けられます。

1点目は、事業者が新人を採用し、育成するという余裕が無いという事です。

現在の内航海運事業者の大半は先にも述べたように中小零細企業が9割以上を占めており、また一定数の資格保有者を乗船させる必要性が有るため、経験者を採用する傾向があります。しかしながら経験者というのも無尽蔵に居る訳では有りません。既に述べたように内航船員は高齢化が急速に進んでおりすでに供給源としては枯渇しかけています。しかし、これらの事業者は自社で新人を育成する経営的余裕はほとんど無く、新人を採用したくても採用できない状況にあるのです。

2点目は船員という仕事を続けたいと思う人が少ないという事です

船員は一般的な仕事と比べて長期間、船という特殊な環境で仕事をし、生活をします。

確かに今では省力化が進み、必要な仕事や人員は減ってはいますが、しかしなお船員が厳しい仕事で あることには変わりありません。また、一旦拠点となる港を出てしまえば、船という閉鎖環境において数名から十数名の人間が仕事だけでなく、生活まで共にするのです。そのような状況で所属した船において人間関係が上手く行かなければとてつもない精神的負担になり、転勤したくても中小の事業者では所有する船舶が1隻ということも多く、現実的な選択肢には成り得ません。

しかしこのような厳しい環境での労働となるにもかかわらず船員の賃金水準は低く、船で働き続けるという動機を失い、退職するという選択をする人が多いのです。

これらの問題を解決し、内航海運を維持する為に私は2つの策を提示します。

まず1つ目の策として、参入規制の一部緩和を実施します

現状では外国航路の船は、日本の会社であっても税金対策などの理由から、船の国籍は税制優遇を行っている国に置くのが一般的になっています。

先にも述べたとおり、内航海運は、自国の経済的政策や国防政策の側面から、その輸送は自国籍船に限り、外国籍船の参入を認めないのが国際慣習上は一般的であり、日本もそのようにしているために日本の会社であっても外国航路の船は国内での輸送は出来ません。

全ての貨物・全ての外国籍船舶に参入を認めると、国内の海運産業の保護、海洋安全保障上多大な影響が出るため、一部に限って緩和することとします。

これまで内航船のみが行えた輸送を一部でも外国航路の船が行えることになればその分、外航船が参入しない部分に内航船や船員を振り向けることができるので、短期的には小型船や地方港間の航路の不足を補う事が出来ると考えます。

2つ目に、船員の教育と雇用のグループ化を推進します。

先に述べたように、内航海運事業者はその99%が中小零細企業で経営状態が厳しく、自社において新たな人材を育成するということが困難であり、十分な人材を維持していくのも困難な状況となっています。

その解決のために、それぞれの事業者において行われてきた船員の教育と雇用をグループ化します。

簡単にいえば、比較的規模の大きい事業者を中心として組合等を設立、そこで新人船員の教育を実施します。そして教育された船員はその組合や管理会社の所属となり、各事業者のニーズに応じて船舶に乗り組むこととなり、一定期間ごとに船員は様々な船を渡り歩く事になります。職場環境が合わなければ、本人の希望よって乗る船を変えることも出来るため、精神的負担も軽減されます。また、効率的な人員配置を行うことが出来るようになり、結果として1人あたりの労働量を軽減できます。

さらに事業者だけでなく、水産学校等の教育機関もこのグループに参加します。

組合から新人を教育機関に派遣し、一定の乗船実習や講習を行うことにより、少しでも企業における人材育成の負担を軽減します。

船乗りは今後の日本を担う重要な存在なのです。一人でも多くの海をゆく人々が増え、日本の未来を担っていくことを期待して私の弁論を終わります。

Copyright (C) 2008 Takushoku Univ. Alumni Association All Rights Received