謎の女 幽蘭 古本屋「芳雅堂」の探索帳より

 

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出久根達郎(筑摩書房、1,700円+税)

紙の本は貴く愉しい――これは著者の爲書である。前見返しにいただいた。紙の本の魅力を知ってほしくて作者は、この小説を書いた。古本小説の最新傑作である。古本をめぐる怪しい面々、元特高警察、贋作グループetc。明治から昭和へ―日本からドイツへ騒ぎは広がる。

ヒロイン本荘幽蘭(久代)は明治42年読売新聞はロシアのウラジオストックに始まり、翌年は大連のホテルから内地の龍野に現れる彼女を描く。舞台はやがて東京に動く。

明治39年、大町桂月や、夏目漱石が出てくる。桂月の名は懐かしい。箱根宮ノ下底倉温泉に逗留して「土地は底倉 宿屋は梅屋 客はウグイス来て泊まる」と一筆のこした。小生、子供のころ覚えた。桂月の子の四郎氏とは1962(昭和37)年ジャカルタで会った。北スマトラ石油開発会社重役で、風格も人物も立派だった。これは余談。古本屋ご主人で、よく調べが行き届いた小説に毎度敬服するしかない。(M)