成功者は端っこにいる 勝たない発想で勝つ

   2014/02/08

成功者は端っこにいる

中島武 著(講談社+α新書、838円+税)

著者の中島武氏(68期)は拓殖大学第一高等学校から拓殖大学に進学、大学卒業後会社務めをするが、後に独立、レストラン業界に身を投じ、今や業界の名士として確固たる地位を築いておられる。

中島氏は応援団に所属し団長まで務めた。応援団といえば猛者揃いで一般学生には近寄りがたい存在である。その団長であった中島氏の著書を手にして果たしてどのような内容なのか、精神主義で満ち溢れているのかと思いきや、さに非ず。期待はいい意味で完全に裏切られてしまった。発想がまことに合理的でクールなのである。全編に著者の人生哲学がちりばめられており、読むほどに納得させられる筆致に一気に読み終えてしまった。

著者が書名の「成功者は端っこにいる」の由来について述べた箇所があるので、そのまま引用する。「拓大応援団ですさまじい先輩たちにもまれるなかで、私は私なりの生き方を学んで身につけたように思う。それが自分の、生きるひとつのロジックになった。簡単に言えば『勝ちたい』と目を血走らせた男が人を押しのけようとしたとき、ふっと体をかわしてゆずる生き方である。彼は私がゆずったおかげで前に出られるだろう。だが、それで彼が勝ったわけではない。私が負けたわけでもない。ほんとうに勝負が決着するのは、もう少し先だとわかっていれば、このとき先をゆずるくらい、なんでもない。ここから書名の『成功者は端っこにいる』となった。」

これこそ中島流の「勝たない発想で勝つ」ロジックなのである。応援団のある先輩に「根性なんかつけるな、肩の力を抜いて、ゆっくり生きろ。」と言われたが、生きていくうえでの至言名言だと、今にして思うと、学生時代を回想する。また、こうも書いている。体育系特有の「気合至上主義」は嫌いである。合理的にものごとを考え、クールに行動することを信条としている。どんな世界でも、やみくもに努力したって、好結果を残せないことははっきりしている。肩の力を抜いて、ゆっくり生きることから豊かな発想が生まれてくる、ということであろう。

何も成功を焦るだけが人生ではない。人間は与えられた環境の中で楽しめばいいのである。自分が納得できる人生かどうか、楽しい人生かどうか、という座標軸もある。重要なのは、失敗した人生を恥じないことだ。むしろ不器用に生きたことを、主張してもいいし、誇ってもいい。器用に出世した人間は物質的にこれ見よがしの派手な暮らしをすることができるかも知れないが、大抵は成金だから実に趣味が悪い。人間権力や金を手に入れると卑しくなってしまう、と手厳しい。

と言って著者は成功を否定しているわけでは決してない。本書のタイトルからも明らかなように、本書はその人の生活信条如何が人生の覇者になるかどうかを決める重要なファクターであることを教えてくれる。人は、小さな成功の積み重ねでしか、大きなことは成し遂げられない。目標を決めたら、そこに至る道筋を冷静に考え、それに基づいて正しく行動すれば、それが成功につながっていく。人を押しのけず一歩引いて、発想を錬る。後は行動に移すだけだが、そこで大事なのは現場での経験とそこから生まれる発想を大切にすることであると著者は強調する。

今日われわれは情報化社会、すなわち種々雑多な情報の渦の真っ只中に身を置いている。お陰で知識は昔と比べものにならないほど豊富になったが、それに反比例して自分の頭で物事を考えない人間が増えているという。このような人間を評して内田百閒はエッセイの中で「世の中にはなんでも知っている馬鹿がいる」と皮肉っている。

情報を利用する側に適切な取捨選択の能力がないと、ただ情報に振り回されるだけで何の意味もないことになってしまう。そこで何よりも大事なのは経験である。今も昔も経験にまさる学習はないのである。そこに成功の秘訣がある、ということだ。

また、この仕事は自分に向いていないと分かったら、きっぱり辞める勇気も必要だ。よく石の上にも三年というが、向いていない仕事にいやいやながら縋りついているよりも、それと分かったら直ちに方向転換するにしくはない。ここで求められるのは判断力と才覚と勇気で、これはまさに著者の人生そのものなのだ。願わくば、すべての人がそのような資質に恵まれていればよいのだが。

紙幅の関係で著者の考え方の一端を紹介させていただいた。出過ぎず一歩引き下がるという人生哲学の背後に並々ならぬ反骨精神を感じとることができるし、また考え方が現実的で合理的であること、そして冷静な観察眼、人間付き合いの機微などなど、本書から人生の在り方について学ぶことが多い。是非一読をお薦めしたい。

中島氏には本書の他に次のような著作がある。「繁盛道場 愛されるお店をつく二十二の法則」(日本経済新聞出版社)「男子厨房で遊ぶべし 紅虎流自慢料理67」(講談社)ほか

郡荘一郎(56期)