海外で活躍する卒業生 第11話 在スーダン日本国大使館三等書記官 室達康宏(102期)

   2014/03/23

海外で活躍する卒業生 第11話①

室達康宏氏は、1980年生まれ、金沢市出身、拓殖大学102期で在学中は拳法部に所属(主将)、拓殖大学卒業後、石油会社等で勤務し、2012年1月から外務省任期付き職員として在スーダン日本国大使館三等書記官(政務・広報文化担当)としてハルツームで勤務中。なお、本稿は執筆者の個人的見解である。(国際部・竹内)

世界初!拓殖大学出身サムライ外交官の世界最古のレスリング参戦記

ヌバ族伝統の太鼓が鳴り響き、独特の歌と踊り、興奮したスーダン人の歓声・叫び声、盛り上げるTV局のアナウンス、そして大使館の同僚が見守る中、私は、外国人として始めてスーダン・レスリングの土俵(リング)降り立った。砂で覆われた土俵の感覚は決闘を思わせ、リング入りした途端、それまでの緊張と不安がどこかに消え、戦いを前にして闘志がメラメラわき上がってきたから不思議である。リング入りと同時に「エイヤッ!」と負い投げの型を二発披露、途端にスーダン人の大歓声とアナウンサーの絶叫が響く。私のスーダン・レスリングはデビュー戦はこうして始まった。

これまでスーダン・レスリングは二度戦ったが、一戦目は、スーダン側も国のプライドがかかっており日本人に負けるわけにはいかないとの事だと思うが、日本人の飛び入り参戦にスーダン・レスリング協会は何を勘違いしたのか何とデスクワークの外交官に対してスーダンの有名なレスラーをぶつけてきた。学生(中学)時代の得意技の両足タックルを試みたが、全く懐に入らせてもらえず、結果は振り回されたあげく見事に投げ飛ばされて一本負け、二戦目は当館が協力したスーダン・レスリング選手権の開会式に「日・スーダン親善交流試合」として私と同じぐらいの体重のスーダン人レスラーと戦い、見事に善戦した。攻防の末、絶妙のタイミングでうまく片足タックルで懐に入ったが、残念ながらその後、足をとられて返され、おしりが土俵についたとの事で私の負け。ルールの違いに泣かされたが、しっかり練習として今度は歴史的参加に加え、スーダン・レスリングで初勝利した外国人を目指したい。2回とも負けてしまったが、何とスーダン人は負けた私を土俵上で肩に上に担ぎ、勝者のように称えた。これこそがスーダン人のホスピタリティである。

なお、同開会式典では堀江在スーダン大使は日・スーダン文化スポーツ交流の重要性につきスピーチし、大使杯とレスリング・ユニフォームを寄贈した。同開会式典と私の親善試合につきスーダン・メディアで「サムライ外交官ヌバ山地の人々とレスリング」として大きく取り上げられることになった。ちなみに、私の試合の模様はYou Tubeにて視聴できるので、ご覧頂きたい。

私の参戦は、外国人、日本人、そして外交官として初めての世界で最も古いレスリングの一つであるスーダン(ヌバ)・レスリングへの参加であり画期的な出来事であるが、退屈な歴史の前にスーダン・レスリングのルールについて説明しておこう。ルールはアマチュア・レスリングのフリースタイルと似ているが、もっと単純である。階級は体重別に軽・中・重量級の3階級のみ、 試合は丸い土俵の上(土俵は砂で覆われており、海岸のビーチの感触に近い)で行われ 、5分一本勝負(ポイント制はなし)で決着がつかない場合は引き分け、打撃技・関節技・絞め技は禁止であるが足払いはOK、相手の肩・背中・腰の一部でも地面につけた時点で勝ちである。

さて、そのスーダンであるが、アフリカに位置するがアラブ・イスラム社会としての要素が強く、特に南スーダン独立後そうした傾向が強まっている。その実、多民族・多文化社会でもあり、地方地方に様々な文化や言語が存在する。2011年7月に独立した南スーダンと国境を接するスーダン南部の南コルドファン州にはヌバ山地と呼ばれる山脈が連なり、同地に住む人々はヌバ族と総称され長年独自の文化を形成し、特に弓などを利用した闘技やレスリングで知られている。

ナショナル・ジオグラフィックによるとヌバ族のレスリングは3000年以上も人々が受け継いできた古い歴史を持つスポーツとされている。紀元前1410年の古代エジプトに最古のヌビア人(現在ではエジプトの南部とスーダンの北部一帯に居住する)レスラーの肖像が描かれている。諸説はあるが、紀元前の古代エジプトの様々なヌビア人レスラーの壁画を調べた考古学者や人類学者、歴史家は、様々なスーダンの少数民族と比較した結果、スーダンの南コルドファン州のヌバ族が古代ヌビア人レスラーの子孫だとみているようだ。ヌバ族のレスリングは古代ギリシャより何百年も歴史が古く、何千年もの間ほぼ変わっていないとされており、また、 ヌバ族にとってレスリングは単なるスポーツではなく、社会的、宗教的な意味を持っており、ヌバ族の生活に欠かせない一部となっている。

スーダンでは南北スーダンの内戦やダルフール紛争・難民など争いのイメージが強いが、ヌバ山地を含むスーダンの南コルドファン州では長年の内戦や低開発に置かれた状況の影響で多くのヌバ族の人々が首都のハルツームに勉強や就学、よりよい生活を求めて移り住んでおり、ハルツームにおいて大きなコミュニティーを形成するようなった。 ヌバ族の人々はヌバ山地において古から現在に至るまでレスリングを続けており様々な地元の大会が開催されているが、ハルツームにおいては90年代に入り、首都に居住するヌバ族のコミュニティーでレスリングが開始された。当時は本当の草レスリングであり、スタジアム等は整備されていなかったが、 近年になり、 スーダン政府(ハルツーム州)はヌバ族のレスリングをスーダンの貴重な文化の一つとして支援を開始し、同州内にいくつかレスリング・スタジアムを整備した結果、現在では、金曜日を含め週2~3回、多くの観客を集めレスリングの試合が行われており、国営放送スポーツ・チャンネルによって頻繁に全国放送されている。まさに私が参加したのがハルツームで開催されているレスリング大会であるが、近い将来本場のヌバ山地でヌバ族とレスリングをしてみたいものである。

室達康宏


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